新年号の行方
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発行したメールマガジンを各号ごとにPDFに変換している最中、男のキーボードを叩く手が突然止まった。
「ない………新年号の原稿がどこにもない。なぜだ?」
男は狭い倉庫の一室で呟くようにうめいた。HDの中を探すこと15分。細分化され、いたるところにちりばめられたファイルの中から目的のファイルを探すことができず、男は途方に暮れた。
「本当に発行したのか、俺?」
ため息まじりに呟いてから、新年号を発行した経緯について思いを巡らせたが、何も出てこない。
再びディスプレイに目をやり、ファイルを探しはじめる。店には従業員も客もなくひとり。お湯が沸騰する音だけが寂しく響いている。
乱暴に店の戸をあける音が、静かな店内に突然響いた。かかとを響かせながら、倉庫に挨拶もせずに入ってきた女性従業員がディスプレイをのぞき込む。
「何作ってるの?」
「メールマガジン専用ページ」
ぶっきらぼうに答えてから、男は自分がいらだっていることに気づいた。気を取り直し、笑顔を作ってから振り向いたが、すでに女性従業員は立ち去っていた。
「何なんだよ」
男は新年号をあきらめ1月15日号からのPDF化を再開した。これ以上の時間の浪費は許されなかった。男には午後1時から私用で出かける予定があったからだ。それに希望的観測だが、家で作業したという可能性が残されていた。店で終わらない仕事は家出する習慣が男にはあった。吹けばあっさりと飛んでいきそうな淡い期待だったが、男はその可能性にかけることにした。
PDF化を終え、新年号をのぞいたメールマガジン専用ページを作り上げた男は、専用ソフトでファイルをアップすると私用のために店を後にした。
店を閉め夕食をすませた男は、家に帰るとさっそくパソコンの電源をいれた。低いうなり声のような機械音が響き、パソコンが起動しはじめる。
テレビを付けると、邦画「耳をすませば」がすでに折り返し地点を過ぎ、佳境に突入していた。
期待していたメーラーには、新年号を送った形跡を見つけることはできなかった。旧式のパソコンの検索機能を使ってみるが、見つけ出すのは、原稿が途中になっている他号の原稿ばかりだった。
正月期間中、店を一人で回していたこともあり、作ったにもかかわらず送らなかったのではないかという最悪のシナリオが脳裏をよぎる。
「大ちょんぼだ。のうのうと第十五号………こっぱずかしい」
常温と変わらなくなった琥珀色の液体を一気にあおると、男は乱暴にウィンドウズキーをたたき、パソコンをシャットダウンさせ、モニターの電源を落とした。楽しみにしていた「耳をすませば」はすでにエンディングロールが流れていた。
「なぜこんなことに」
いろいろな意味が込められた『なぜ』を何か責任のある立場の人間を気取って呟いた男は、それに満足したのかわずかなエンディングロールを堪能すると残っている仕事をしはじめた。
横になっていた男は、電子音で目覚めた。枕の下に置いている携帯を取り出し、サイドボタンで電子音を停める。男は最近、夜中のスパムメールに悩まされていた。ほとどが海外からのメールで、店宛に届いたものが、男の携帯に転送されるものだった。
「今回は何?」
携帯電話の時計は一時四十分をさしている。眠りに落ちてから二十分ほどが経過していた。
携帯液晶のまぶしさに目を細めながらメール受信フォルダを開くための暗証番号を打ち込む。一度番号を間違え拒否されたが、もう一度番号を打つとフォルダが開いた。
件名のはじめには『RE:』の文字。見た瞬間、男は全てを理解した。男は神に感謝した。日常の悪行を深く反省し神に許しを請い、そしてついでに禁煙を誓ってから、メールの送信元を確認した。そこには見慣れたメールアドレスがあった。
「………●●さん」(●●は送信者本名につき伏せ)
暗闇の中、手探りでたばことライターを捜し当てると、男はたばこをくわえ、ライターの火を付けた。カチッという音が響くと、瞬く間にオレンジ色の柔らかな光が暗闇をかきけした。紙と葉が燃える音を楽しみ、それから煙をゆっくりと吐き出す。『RE:』のあとには、『香露茶館 メールマガジン(1月1日発行)◆14号◆』。
男は親指を立てた。そして左手を右肘に当ててから上腕部を起こし、静寂にかき消されるような小さな声で呟いた。
「ないすでぇ〜す」
「なにが?」
「えっ!」
<きっと続かない。了>
********************************
IT担当でございます。本日午前10時半ごろに、空白になっておりましたメールマガジン新年号のバックナンバーをアップいたしました。ご協力いただきました(新年号の原稿を送っていただいた)●●さん(本名につき伏せ)ほんとうにありがとうございました。
(IT担当)
「ない………新年号の原稿がどこにもない。なぜだ?」
男は狭い倉庫の一室で呟くようにうめいた。HDの中を探すこと15分。細分化され、いたるところにちりばめられたファイルの中から目的のファイルを探すことができず、男は途方に暮れた。
「本当に発行したのか、俺?」
ため息まじりに呟いてから、新年号を発行した経緯について思いを巡らせたが、何も出てこない。
再びディスプレイに目をやり、ファイルを探しはじめる。店には従業員も客もなくひとり。お湯が沸騰する音だけが寂しく響いている。
乱暴に店の戸をあける音が、静かな店内に突然響いた。かかとを響かせながら、倉庫に挨拶もせずに入ってきた女性従業員がディスプレイをのぞき込む。
「何作ってるの?」
「メールマガジン専用ページ」
ぶっきらぼうに答えてから、男は自分がいらだっていることに気づいた。気を取り直し、笑顔を作ってから振り向いたが、すでに女性従業員は立ち去っていた。
「何なんだよ」
男は新年号をあきらめ1月15日号からのPDF化を再開した。これ以上の時間の浪費は許されなかった。男には午後1時から私用で出かける予定があったからだ。それに希望的観測だが、家で作業したという可能性が残されていた。店で終わらない仕事は家出する習慣が男にはあった。吹けばあっさりと飛んでいきそうな淡い期待だったが、男はその可能性にかけることにした。
PDF化を終え、新年号をのぞいたメールマガジン専用ページを作り上げた男は、専用ソフトでファイルをアップすると私用のために店を後にした。
店を閉め夕食をすませた男は、家に帰るとさっそくパソコンの電源をいれた。低いうなり声のような機械音が響き、パソコンが起動しはじめる。
テレビを付けると、邦画「耳をすませば」がすでに折り返し地点を過ぎ、佳境に突入していた。
期待していたメーラーには、新年号を送った形跡を見つけることはできなかった。旧式のパソコンの検索機能を使ってみるが、見つけ出すのは、原稿が途中になっている他号の原稿ばかりだった。
正月期間中、店を一人で回していたこともあり、作ったにもかかわらず送らなかったのではないかという最悪のシナリオが脳裏をよぎる。
「大ちょんぼだ。のうのうと第十五号………こっぱずかしい」
常温と変わらなくなった琥珀色の液体を一気にあおると、男は乱暴にウィンドウズキーをたたき、パソコンをシャットダウンさせ、モニターの電源を落とした。楽しみにしていた「耳をすませば」はすでにエンディングロールが流れていた。
「なぜこんなことに」
いろいろな意味が込められた『なぜ』を何か責任のある立場の人間を気取って呟いた男は、それに満足したのかわずかなエンディングロールを堪能すると残っている仕事をしはじめた。
横になっていた男は、電子音で目覚めた。枕の下に置いている携帯を取り出し、サイドボタンで電子音を停める。男は最近、夜中のスパムメールに悩まされていた。ほとどが海外からのメールで、店宛に届いたものが、男の携帯に転送されるものだった。
「今回は何?」
携帯電話の時計は一時四十分をさしている。眠りに落ちてから二十分ほどが経過していた。
携帯液晶のまぶしさに目を細めながらメール受信フォルダを開くための暗証番号を打ち込む。一度番号を間違え拒否されたが、もう一度番号を打つとフォルダが開いた。
件名のはじめには『RE:』の文字。見た瞬間、男は全てを理解した。男は神に感謝した。日常の悪行を深く反省し神に許しを請い、そしてついでに禁煙を誓ってから、メールの送信元を確認した。そこには見慣れたメールアドレスがあった。
「………●●さん」(●●は送信者本名につき伏せ)
暗闇の中、手探りでたばことライターを捜し当てると、男はたばこをくわえ、ライターの火を付けた。カチッという音が響くと、瞬く間にオレンジ色の柔らかな光が暗闇をかきけした。紙と葉が燃える音を楽しみ、それから煙をゆっくりと吐き出す。『RE:』のあとには、『香露茶館 メールマガジン(1月1日発行)◆14号◆』。
男は親指を立てた。そして左手を右肘に当ててから上腕部を起こし、静寂にかき消されるような小さな声で呟いた。
「ないすでぇ〜す」
「なにが?」
「えっ!」
<きっと続かない。了>
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IT担当でございます。本日午前10時半ごろに、空白になっておりましたメールマガジン新年号のバックナンバーをアップいたしました。ご協力いただきました(新年号の原稿を送っていただいた)●●さん(本名につき伏せ)ほんとうにありがとうございました。
(IT担当)
- [2006/03/11 12:38]
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